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“19歳”メジャー初V!川﨑春花の勝負強さの秘訣とは…!?原動力は「攻めるスタイル」

ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。

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予選会を突破して地元開催最終日へ

2021年11月5日。この日に終了した21年度の女子プロゴルフ最終テストでは、21人が合格した。94期生である。その5か月前には、遅れていた20年度の最終テストで22人(93期生)が合格。つまり21年は43人の新人が誕生したのだ。 

その中の最初のツアー優勝者は93期生の岩井千怜だった。22年8月『NEC軽井沢72』から2試合連続で優勝したのである。 それに続いたのが後輩の94期生、川﨑春花である。03年5月京都府生まれ。笑顔があどけなく体も細い。中学生のようにも見える彼女が勝ったのは、公式競技=年間4試合のメジャー大会だった。 

9月第2週の『日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯』(9月8日〜11日。以下『日本女子プロ』)でのこと。今年55回目の女子ツアー最古の大会を、プロ入り1年未満の川﨑が制したのである。22年『日本女子プロ』は城陽CC(京都府城陽市)で開催された。

第1ラウンドの単独首位は菅奈々( 22歳)。童顔だがプロ入りは18年。今年でプロ5年目になる。20― 21シーズンにシード権を獲得し、22年はこの前週までに10回のトップ10入りを記録してきた。着実に伸びてきた選手である。この日は8バーディ、1ボギーの7アンダー。1打差2位タイは山下美夢有( 21歳)、種子田香夏( 27歳)の2人だった。 

シード権がない川﨑は、大会の予選会を突破して出場してきた。第1ラウンドは3アンダー、18位タイ。地元・京都出身の選手として注目されていた。 「アンダーでうれしい。このまま明日もプレーしたい。初の地元の大会で、気合が入っています」(川﨑) 

第2ラウンド。菅沼はトータル9アンダーでトップを守った。そこに山下と川岸史果( 27歳)が追いついてきた。 山下はここまでシーズン2勝。5月の『ワールドレディス』で自身初のメジャー優勝を経験していた。2勝目は1カ月後の『宮里藍 サントリーレディス』。

そのほかにも2位(タイを含む)が4回あり、5位以内は12回を数える。メルセデス・ポイントでも5勝の西郷真央(20歳)を抑えてダントツ。この大会でも本命視されていた。 川﨑はこの日も3アンダー。トータル6アンダー、8位タイに上がった。 

「(今日は)緊張もなく、いつもどおりにプレーできました。パットがいい感じです」 リーダーボードに名前が載るところまで上がったが、その口から「優勝」の2文字は出なかった。 本命が第3ラウンドで上がってきた。山下がこの日3アンダー、通算12アンダーで単独首位に立ったのだ。

「第2打の距離感がいまひとつ。後半はチャンスがあったが、パットのタッチが合いませんでした」 それでも60台を連ねて2打のリードを奪った。2位は10アンダーで森田遥(26歳)。過去1勝、今季は未勝利ながら何度も優勝争いを演じてきた。3位は9アンダー三ヶ島かな(26歳)。前年最終戦のメジャー大会『JLPGAツアーチャンピオンシップ』でプロ初優勝している。 さらに1打差の4位タイには4人が並んだ。前日まで首位の菅沼と川﨑もここにいた。 

川﨑は8番でボギーが先行したが、14番パー5、15番パー4、17番パー4とバーディとしてこの日2アンダー。通算8アンダーへと伸ばした。「13番までノーバーディでしたが、その後3つ獲れてよかった。明日も上位で終われるようにがんばりたい」。この日も優勝争いとは無縁のコメント。それが自然に感じられたのは当然だろう。他の選手と違って川﨑に実績はなかった。この『日本女子プロ』の前までにツアー出場は10試合。6試合は予選落ちで、予選通過の最高成績は29位タイである。それでも勝ったのは川﨑だった。

8番でイーグルINは連続バーディ

メジャータイトルがかかった最終ラウンド。スコアの動きは鈍くなった。山下は4番パー3でバーディ先行。だが5番パー5はまさかのボギー。7番パー3でバーディを獲ったがその後は続かず、11番パー3をボギーにすると12番パー5でもバーディを逃がしてしまう。これで後続に追いつかれた。 菅沼は12番まで4バーディ、ノーボギーで山下に並んだ。

2打差でスタートした森田は4バーディ、1ボギー。1打リードの単独首位に立っていた。 最終組の一つ前でプレーする川﨑はスタートからパー続き。だが、8番パー4で第2打がカップインした。2打目はピンまで120ヤード。得意のPWだったがダフってしまう。それでも「方向性だけは気をつけた」ことで、打球はピンに向かった。かなり手前に落ちたが転がり続けてカップに届いたのである。 このホールのティショット前。「最後まであきらめない」と決めていたこの日のテーマを思い出したという。

川﨑はひそかに優勝にターゲットを絞っていたのだった。その直後に起きたミラクルのイーグル。勝ちたい思いに火が付き、インでバーディの量産が始まった。12番パー5は3打目を52度でベタピン。13番パー4では2打目を1メートル半。それを決めて通算12アンダー。山下と並び1打差2位タイに浮上した。 目を見張る。そんな表現しかできないゴルフが展開されていったのはこの後だ。

14番パー5。ここも1メートル半のバーディパットをあっさり沈めた。3連続バーディで首位に並んだ。 続く15番は355ヤード、パー4。ここもフェアウェイからの2打目をナイスショットで2オンさせたが、ピンまでは5メートルくらいの上り。それ以前の3ホールで1メートル半以内のパットしか打っていないことを考えれば、長いバーディパットになった。カップインを狙いながらも、丁寧に2パットでもよし……というイメージが湧きやすい場面だが、そんな意識はカケラも持たなかったようだ。 大きくヘッドを動かす素振りを繰り返してから構えると、素振りよりさらに大きくヘッドを振った。

「パチン」という打球音が響き、球は強く転がってカップに沈んだのだ。 4連続バーディ。通算14アンダーで単独トップに抜け出した。バックナインに入ってから6ホールで4打伸ばしてみせたのである。首位を争う全員がなかなかバーディを獲れない中での、鮮やかな奪首劇だった。 バーディ劇場はさらに続いた。 16番パー3はパー。その後の17番パー4。ピンまで72ヤードの第2打をためらうことなく打つとピン左1メートル半に乗り、ここもバーディ。 

さらに18番パー4も続いた。上から8メートルのバーディパットを強めに転がし、ピンに当てて沈めた。 最終日の18ホールは8アンダー。バックナインは11パットで30。大逆転できたのも当然と思える、素晴らしいスコアを出した。 通算は16アンダー。2位の山下とは3打差。山下が18番の1打目を打ち終わった時点で川﨑の優勝が確定した。

この勝利は多くの記録を生んだ。
●ルーキーイヤーでの大会(『日本女子プロ』)優勝/初
●予選会からの大会優勝/初
●大会最年少優勝/19歳133日
●大会初出場初優勝/5人目(14年鈴木愛以来)
●大会の地元優勝/初


その原動力は「攻めるスタイル」だと川﨑はいった。「腰痛がひどくなって、プロ入りから成績が出ませんでした。でも腰の痛さ以上に勝負から逃げていたことに気づきました。ビビりながらプレーしていたのです。高校時代から、私の持ち味は攻めて結果を出すことだったのに……」猛省し、腰痛の改善とスイング改造がかみ合い始めると、8月には下部ツアーのステップアップツアー『山陰ご縁むす美レディース』での優勝が手に入った。

4打の大差をつけてステップ初Vを決めたのだ。「すごく自信になった」というこの勝利から約半月後。初めて臨んだプロのメジャー戦でも「攻める」ゴルフでツアー初優勝をつかみとったのである。その表れが「リーダーボードで戦況を確認してプレーしていた」ことだ。プレッシャーは心の中に生まれる。それを強めるものに「スコアの皮算用」がある。『残りホールをいくつで回れば優勝できるか』と計算するのが皮算用。これを始めるとたくさんの不安が生まれてくる。何が起きるかわからないのがゴルフ。他の選手がどれだけ伸ばすかもわからない。自分でコントロールできないことを気にすると過度の恐怖心が湧いてくるのである。

「リーダーボードを見る」ことは、皮算用につながる行動だ。それならボードは見ないで自分のプレーに専念したほうがいい。そういう考え方がある。 例えば中国選手として初めてメジャー優勝(12年全米女子プロ)したフォンシャンシャンは、リーダーボードを見ないプレーを徹底していた。 特に未勝利の若手は「順位を意識しない」ことが初優勝につながる場合がある。 だが川﨑は『日本女子プロ』の大舞台でボードを見て、首位に立ったことを認識し、勝つことを意識してバーディを量産。強豪たちを突き放したのだ。驚くべきことといっていい。 

実はゴルフ殿堂入りを果たしたゴルファーには「ボードは必ず見る。自分の位置を確認しないで、どうやって勝負するんだ?」というタイプが多い。川﨑もそうなのかもしれない。ステップで優勝したとき、川﨑はこういっている。「攻めることに集中しました。おかげでまったく緊張はしませんでした」 この言葉を聞くと『日本女子プロ』の勝ちっぷりも納得できる。渋野日向子もプロテスト合格から1年もたたない19年5月に『ワールドレディス』でツアー初優勝した。だがその前には6位タイ、2位タイなどの成績を残していた。それに比べたら、川﨑の『日本女子プロ』はまったくの無印。逆にいえばそれだけ生来の強さを持っている、と見ることもできる。

初優勝後、川崎は2週連続で予選落ちした。劇的な優勝の反動かもしれない。考えてみれば川﨑は5月に19歳になったばかり。体力面、精神面も含めて波が大きいのは仕方がない。だが自分の長所で勝負していく姿勢は失わないでほしい。「攻めたからシビれなかった」というセリフで、新しい歴史を作ってほしいものである。

いかがでしたか? 今回紹介した選手の活躍を期待して、一緒に応援していきましょう!

文=角田陽一
写真=小林司

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