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岩井明愛「5度の2位」が生んだ優勝とは…?「自分との戦い」を見せた2人の2位物語

ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。

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「自分との戦い」を見せた2人の2位物語

東海クラシックでツアー2勝目を挙げた岩井明愛

初優勝後に続いた2位

20世紀には、男女ツアーが同じコースで同時に行われていた時期があった。『東海クラシック』(同時開催は70〜94年)と『美津濃トーナメント』(同71〜90年)である。このうち『東海クラシック』は現在も男女の大会( 男子は『バンテリン東海クラシック』、女子ツアーは『住友生命Vitalityレディス 東海クラシック』)が行われている。ちなみに現行の試合では『東海クラシック』は女子ツアーで3番目に古い。スポンサー競技としては最古で、半世紀以上の歴史は特筆ものだ。

その54回目となった今年は21歳の岩井明愛が制した。02年7月生まれ。双子の千怜(妹)と21年にプロテストに合格。今シーズン4月に初優勝し、ツアーの主役に加わった。千怜は22年に2勝。23年も6月までに2勝した。だが明愛の2勝目は遠かった。調子はよいのだ。優勝の翌週からの17試合で5位以内が9回。半数以上の5回は2位(タイを含む。3回はプレーオフ敗退)に入ったのに勝てなかった。そのためか、2位のときのコメントはしだいに重くなっていった。

1度目の2位は、プレーオフで千怜に敗れた『RKB×三井松島レディス』。「プレーオフは初。こんなに楽しいのかと思いました。その中に千怜もいて、不思議な気持ちでした。もちろん悔しい。8割悔しくて、千怜が優勝して2割うれしいです」2度目は翌週の『ブリヂストンレディス』。山下美夢有に7打の大差をつけられた。「まだ練習が足りない。負けたことより、内容が悔しいです。山下さんはすごかった」3度目は1カ月後の『ニチレイレディス』。このときも山下に3打差をつけられた。「きょうは4アンダーで悔いのない1日だった。(山下は)やっぱり隙がない」

4度目は翌週の『アース・モンダミンカップ』。2度目のプレーオフで申ジエに敗れ、笑顔はなかった。「悔しいしかないですね。全部出し切って敗れたので、今まで以上に練習するしかない」5度目もプレーオフ。8月4週の『ニトリレディス』最終ラウンドが中止になり、首位に並んでいた3人(菊地絵理香、申、明愛)のプレーオフだけが行われ、菊地に敗れた。「プレーオフ前は緊張していなかったのですが、ティに立って順番が回ってきたら緊張してしまった。しょうがないです。パーで上がれればいいと思っていました」これが最もネガティブだ。

「緊張に襲われ、パーで上がれればいいと思った」には、「常に攻める自分のゴルフを見てほしい」と公言してきた明愛らしさはなかった。プレーオフへの苦手意識のせいかもしれないが、勝った菊地(過去5勝)もプレーオフは4戦全敗。それでも「今日はなにか変えよう」とプレーオフに向かう3台のカートの先頭に乗り込んだ。結果を変えようとした必死さの表れだった。こうして「2位物語」を続けた明愛だが、最後に自分の気持ちを前に向けた。「また次週から。燃えているので今年もう1勝。絶対できると思っています」これが3試合後に実を結んだ。

初日から首位優勝は考えず……

『東海クラシック』の第1ラウンドは9バーディ、ノーボギー。単独トップ(3打差)に立った。5メートル前後のパットが面白いように入った。要因は「勝ちたい気持ちの封印」だといった。「勝ちたい気持ちが強すぎていたので、やめてみようと思いました。優勝のことは全く考えていないですし、多分この先も考えないでしょう。考えると体が動かなくなるので」それですぐにこの結果が出たのだった。第2ラウンドも8バーディ。この日は2ボギー、1ダボもあって4アンダー。通算13アンダーで2位に3打差で首位を守った。

「目標は順位とかではなく、周りを気にせず楽しく自分のゴルフをすることです」とこの日も優勝は考えないことを強調した。最終ラウンド。3打伸ばして、2位に4打差で迎えた14番パー4で事件が起きた。1打目は右バンカー。2打目は106ヤードのバンカーショット。PWで左にひっかけた打球はグリーンを飛び越すOBになった。5オン1パットのダボを叩いた。2位とは2打差に縮まった。一組前の小祝さくらが15番でバーディを決めて1打差にもなった。またか……と思われたが、今度は踏みとどまった。

16番パー3。194ヤードの1打目をピンまっすぐに打ち、カップ手前1メートルにつけた。これを沈めて通算15アンダー。小祝も17番でバーディを獲り、1打差で追撃してきたが逃げ切った。初日から首位を走り続けた完全優勝だった。明愛は「2位物語」に区切りをつけたのだ。「(14番のダボは)今日は『やっちゃった』とは思いませんでした。OBを打ってもたぶん大丈夫、何とかなると思えた。以前の自分とは違いました」と胸を張った。この結果メルセデス・ポイントは3位へ浮上。シーズン残り10試合で1位の申、2位の山下を逆転できる好位置に上がり、年間女王も見えてきた。

5回の2位のおかげである。第2ラウンド後に「順位や優勝は気にしない」と宣言したが、徹底はできなかったようだ。「OBを打っても何とかなると思えた」の言葉は、優勝を考えていた証しだからだ。優勝を切望してきたのだから無理はない。だが、「(優勝を)考えると体が動かなくなる」とわかっていたなら「勝ちたい」は封印しなければならなかった。この部分の戦いを完遂してこそ、強くなる手掛かりが得られるからである。それでも2度目の優勝ができた。勝因は、自分への信頼感だろう。ダボを打ちながら「何とかなる」と思えたことだ。

明愛は翌週の『ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン』も3ラウンドを完全優勝した。その勝ち方は『東海クラシック』より万全で、プレー後も「優勝は考えなかった」と徹底していた。「自信が増した」という口ぶりには、すごい成長が感じられた。人は行動の選択をするときに、必ずもう一人の自分と会話する。心の中で自分を第三者的に見ている「内なる自分」である。例えば池越えのショットの前。プレーヤーの「自分自身」は「池越えを狙いたい」と思ったが、「内なる自分」が「レイアップしたら?」というときがある。

素直に助言に従えばうまくレイアップでき、その後のリズムもよくなるはずだ。だが「自分自身」が「池越えしないとダボになる。45が切れなくなっちゃう」と反論。池越えを選択することもある。たいていはミスになり、その後もスコアを崩しやすくなる。プレーヤーの「自分自身」はいろんな計算をする。複雑な感情も抱える。だから過剰な欲=我欲も出る。「内なる自分」は現状を冷静に分析する。感情を絡めないから我欲もない。的確で冷静なアドバイスには、なるべく従うべきだろう。また、ときには「内なる自分」が励ましてくれる場合もある。

大失敗して消極的になったときに、「内なる自分」が「今日は大丈夫だよ」といってくれるときもあるのだ。また即断して無意識的な選択をすることもある。二人の自分の意見が一致したときで、とてもよいプレーができる。そうなるのは我欲がないとき。「順位や優勝は気にしない」ときだ。「自分自身」に我欲がなければ「内なる自分」と意見が一致するのは、自然なことである。リスクがあっても挑むか。セーフティにいくか。どちらにしても「内なる自分」の声の受け入れがカギになる。そのためには我欲の制御が重要。

早く結果を欲しがる自分の欲望と戦うことだ。ゴルフが「自分との戦い」といわれるゆえんである。『東海クラシック』のテレビ解説をした森口祐子は、最終日にこうコメントしていた。「他の選手のスコアはコントロールできないので、自分に負けない、ということが大事になりますよね」自分に負けないプレーができている。そういうお手本のようなプレーを見せていた選手がいた。単独2位の小祝である。

小祝の活躍で試合が盛り上がる

アドレスのルーティーンに入ると動きを止めない小祝さくら

23年の小祝は7月2週の『ミネベアミツミ』でシーズン初V。通算9勝目を挙げた。その後も8試合で5位以内6回。2位(タイ含む)は3回もあったが、彼女もシーズン2勝目には手が届いていなかった。そんな状態で臨んだ『東海クラシック』も2位。それも『ゴルフ5レディス』『日本女子プロ』に続いて3戦連続の1打差2位だった。逆にいえば、優勝者に匹敵する好プレーを続けてきたともいえる。小祝の特徴は「止まらない」こと。アドレスのルーティーンに入ったら、体の動きを止めることなくストロークをやり切る。デビュー直後から見られたこの特徴には、さらに磨きがかかっている。これを続けられるのは、イメージした球筋を実現することに没頭できているためだ。言い方を変えれば「雑念を持たない」ことになる。次のような心配事である。

●構えた向きが違うのではないか。
●届かないのではないか。

こうしたミスへの恐怖心は完全には防げない。記憶力や思考力に優れた人間は、悪い結果も予測するからである。それを防ぐ最前の方法が「動きを止めない」こと。こうすると構えからフィニッシュまで、ナイスショットのイメージだけに集中できる。逆にいえば雑念が湧き出すと、動きはよどむ。最もよく出るのが始動直前だ。目標方向を視認する動きや、ワッグルがいつもより増えたりすると動きが止まってしまうのである。常にスムーズにストロークする。それが小祝のゴルフの支えだろう。それでも1打差の2位が3戦連続で続くのが「他の選手のスコアはコントロールできない」ゴルフの特性である。

ただ、小祝の好プレーは優勝争いを引き締めてきた。3連続で「誰が勝つか最後まで分からない」試合が見られたのは、彼女のおかげである。この3試合は立派な「準優勝」である。若手の登場で注目されてきた女子ツアー。だが、軸になるプレーヤーがなかなか生まれてこない。高い安定感を発揮できるプレーヤーが何人か定着してくれれば、さらに面白いツアーになるだろう。岩井姉妹や小祝がそうした存在になることを祈りたい。

岩井明愛&小祝さくら
@ 2023年 住友生命
Vitalityレディス 東海クラシック

文=角田陽一 写真=ゲーリー小林

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